前玉神社本社に登る階段をはさむように、元禄10年(1697年)10月15日、当神社の氏子たちが所願成就を記念して奉納した2つの燈籠があります。高さは180センチメートル。
この地を詠んだ万葉集の歌、「小崎沼」と「埼玉の津」が刻まれています。
『佐吉多万能 津爾乎流布禰乃 可是乎伊多美 都奈波多由登毛 許登奈多延曽禰』
(さきたま)の 津(つ)に居(を)る船の 風をいたみ 綱は絶ゆとも 言(こと)な絶えそね
巻十四 三三八〇
◇ 訳 ・・・
埼玉の渡し場に停まっている船の(船を留めておくためのその)綱が、烈しく吹く風のために切れることがあっても、私たちの恋は切れて絶えないでおくれ(例え二人は逢えずとも、決して心伝える便りは絶やさないで下さい)。
◇ 解釈・・・・・
現在の行田市下中条のあたりが詠まれた地である。利根川の流路の船着き場であり、下総の国府から来た水路でかなり賑わいがあったと思われる。現在の行田市も、利根川土手あたりをはじめ赤城颪(おろし)のように烈しく風が吹く。
北風の強いときは自転車を漕いでも、風に向かうと全然進めないくらいである。そのことを考えると烈しく吹く風の中で揺れたり激しく船に叩きつけられている「もやいの綱」を見ている実感が伝わってくる歌である。
『前玉之 小埼乃沼爾 鴨曽翼霧 己尾爾 零置流霜乎 掃等爾有欺』
埼玉の 小埼の沼に 鴨そ翼(はね)霧(き)る 己(おの)が尾に 降りおける霜(しも)を 払(はら)ふとにあらし
巻十四 三三八〇
◇ 訳 ・・・・・
埼玉の小埼の沼で、鴨が羽ばたきをして水しぶきを上げている。自分の尾にふり降りた霜を払おうとしていようだ。
◇ 解釈 ・・・・・
虫麻呂は常陸の国守藤原宇合(うまかい)の臣下であり、ここ埼玉以外でも、美里町広木で歌を詠んでいる。公用の旅で訪れたときに、目に触れた情景に対して感じたままに歌を詠んだのであろう。